改善に明確な正解はない
前回は「課金されたかどうか」という、最初の分析を行いました。ここからは改善のフェーズです。
改善については、「この改修をしてください」「この数字を必ず追ってください」といった明確な基準は特にありません。大事なのは、自分のアプリの一番弱い部分を直すことです。
弱い部分はファネル分析で見つける
弱い部分を見つけるために、私がよく使うのがファネル分析です。
アプリを1つのバケツだと考えてください。そのバケツには、小さいものから大きいものまで、さまざまな穴が開いています。
アプリには、インストール → 新規登録 → 利用開始 → 継続利用 → 課金、といったフェーズがあります。そして各フェーズで離脱する人がいます。
- インストールはしたが、新規登録しなかった
- 新規登録はしたが、1日で離脱した
- 30日間使ってくれたが、課金には至らなかった
この各フェーズの離脱ポイントこそがバケツの穴の正体です。ですから、むやみに改善を始めるのではなく、まずファネル分析を挟んでから改善に取りかかってください。
まず計測を入れる
ファネル分析を行うには、データとして測る必要があります。分析ツールとしては、次のような選択肢があります。
- PostHog
- Google Analytics(Webサービスの場合)
- 普段使っているデータベースに計測用のデータを記録する
ぬい日和ではConvexというBaaSを使っていますが、そこに分析用の計測を入れることで、どこで離脱しているかを測れます。
どこに計測を入れればいいかは、Claude CodeやCodexなどのAIエージェントに任せられます。次のように頼んでみてください。
このアプリのバケツの穴を発見するために、ファネル分析を行いたいです。
どこに計測を入れればよいか教えてください。そして実際に入れてください。
これで計測を一通り入れてくれます。改善の前に分析が必要なので、まずは計測を入れるところから始めましょう。
離脱率が最も高い場所から塞ぐ
計測を入れたら、たとえば1週間待ちます。データがたまると、どこで離脱が多いのかがパーセンテージで分かります。
離脱率が大きい場所は、バケツの穴が大きい場所です。そこを塞ぐのが最も費用対効果(ROI)が高い改善になります。そして、なぜそこで離脱しているのかという仮説を立てます。
具体例:新規登録率が低い場合
たとえばWebサービスで、最初からGoogle認証やメールアドレス・パスワードの登録を求めているとします。アプリの良さが何も分からない時点で認証を求められても、ユーザーには登録する動機がありません。
そこで、アプリの良さが登録せずとも分かる瞬間を、登録の前に持ってくるという仮説が立てられます。アプリを好きになる瞬間のことを、業界用語で「アハモーメント」と呼びます。先に良さが分かれば、ユーザーは自然と新規登録に進むので、順序を入れ替える改善を試してみるわけです。
ChatGPTが良い例です。AIに質問を打ち込んで Enter を押そうとした瞬間に認証を求められます。「認証すればAIに聞ける」という動機が生まれるので、登録してもらえるわけです。
仮説と検証を回し続ける
計測される数値も、どう直すかの仮説も、アプリごとに異なります。ただ、最近のAIは非常に賢いので、分析したデータをもとに仮説も立ててくれます。たとえば仮説を5つ出してもらい、自分でレビューして良さそうなものから試していきます。
- 改善を入れる
- 1週間ほど待ってデータを分析する
- バケツの穴が小さくなっていれば、仮説は正しかったと判断する
- その学びを記録して資産にし、次の改善に活かす
このサイクルをひたすら回し続けるのが、プロダクト開発の本質です。グロースハッキングとも呼ばれます。分析・仮説・改善のフェーズはかなりセンスが問われるところで、ここからが本番だと思ってください。
いつまで回せばいいのか
このサイクルに終わりはありません。ただ、1つの基準としてPMF(プロダクトマーケットフィット)達成のシグナルがあります。数値から分かる定量的なシグナルと、ユーザーの行動など数字には現れない定性的なシグナルの2種類です。次のレッスンでは、どのようなシグナルが出たらアプリが受け入れられたと言えるのかを解説します。
個人開発やスタートアップで難しいのは、PMFを達成するまで分析・仮説・改善を続けられるかという点です。体力とモチベーションを保って、諦めずに続けられるかが問われます。
AIがなかった時代のスタートアップは、エンジニアやデザイナーを雇う必要があり、毎月多くの資金を消費していました。資金が尽きるまでにPMFを達成するのは至難の業でした。今はAIで1人でも開発できるため長い期間をかけられ、難易度はある程度下がったと思います。